日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■栗の花と梅雨 私が住んでいるのは紀伊半島の南端部にほど近い場所。 自然がたっぷりある良い場所です(「自然しかない」といわなければ)。 そんな場所ですので、家の裏にも雑木の生い茂る山があります。あえて「雑 木の山」と書いたのは「雑木林」などと言う上品なものではないので。しか も、結構な急傾斜の場所がほとんどなので「山」が適当でしょう。そんな場 所にある我が家の周囲には十日ほど前から青臭い匂いが漂ってました。 「何だろう、この青臭い匂いは」 「雑木の山」から青臭い匂いがするのは当たり前といえば当たり前なのです が、この時期になると一際青臭い匂いが際立ってきます。 匂いについて、もっと詳しく書ければいいのですが、「どんな匂いか」とい われても私には「青臭い匂い」以上に適切な言葉が浮かびません。 ごめんなさい。 さてその青臭い匂いはどこから来ているのかというと、幾本かの樹の枝に見 える黄白色の細い房状の花、栗の花からです。 栗の花は一見すると、白い犬のしっぽのような形で、一房の長さは10~20cm くらい、房の直径は1cmくらいの細長いものです。 ※栗の花の画像 https://koyomi8.com/img/sashie6/kurinohana.jpg 栗の花は梅雨入りの前に咲く花です。 栗の花が咲き、やがて花が終わって枝から落ちる頃に梅雨入りすると言われ ることから、栗の花は「墜栗花」(ついりばな、あるいは、ついり)という 異称があります。 「墜栗花」の「ついり」という言葉は、梅雨入りの意味です。 ◇栗の開花日と梅雨入りの日付 さて、栗の花が落ちる頃梅雨入りとなるという話は本当でしょうか? 気になりますね。 こんな時に頼りになるのが気象庁の生物季節観測データベースです。 ※生物季節観測データベース(気象庁観測データ) https://agora.ex.nii.ac.jp/cps/weather/season/ でも、栗の花のデータなどあるのかな? そんなことを思いつつ調べてみると、ありました。 「くりの花の開花日」が。 掲載されている観測データは水戸地方気象台のもので、期間は2014~2020年 の7年分です。やはり栗の花はマイナーな存在らしく、観測してくれている 気象台は水戸地方気象台だけでした(それに、花が落ちる日じゃなくて、開 花日でしたし)が、それでもデータがあるのはありがたい。 あとは、同じ期間の梅雨入の日のデータがあれば・・・。 もちろんあります。こちらは栗の花の開花日と違って、メジャーな梅雨入り の日のデータですから。梅雨入り日についても気象庁の関東甲信越の梅雨入 りデータを使いました。 ※生物季節観測データベース(気象庁観測データ) https://agora.ex.nii.ac.jp/cps/weather/season/ 水戸の栗の開花日と、関東甲信越の梅雨入り日を並べてみると次のようにな ります。 栗の開花日 梅雨入り日 差 (差:梅雨入り日 - 栗の開花日) 2020-06-01 2020-06-11 (10日) 2019-05-28 2019-06-07 (10日) 2018-05-22 2018-06-06 (15日) 2017-05-31 2017-06-07 ( 7日) 2016-05-31 2016-06-05 ( 5日) 2015-06-01 2015-06-03 ( 2日) 2014-06-04 2014-06-05 ( 1日) この7年間の栗の開花日と梅雨入り日の差の平均は7.1日でした。 栗の花が咲いて、散り(落ち)始めるまで1週間か10日ほどと考えると、な かなか良い感じ。梅雨入り日を知るための指標としては、栗の花はなかなか 性能の良いもののようです。 ◇今年(2025年)の梅雨入りは? さて、この時期になると気になるのが梅雨入りの時期。九州地方は例年より 大分早く梅雨入りしたようですが、この辺り(近畿地方南部)には、気象庁 からの「梅雨入りした模様」という知らせは届いておりませんが、栗の花の 具合からすれば、そろそろかなというところ。 今朝の天気予報によると、どうやら近畿地方も今週当たり、梅雨入りとなり そう。そのとおりならば、我が家の裏山の栗の花が知らせる梅雨入り時期と ほぼ一致したといってもよさそうです。 栗の花のあの匂いは、ただ青臭いだけじゃなくて、季節の移り変わりを知ら せる匂いの便りなのですね。ここで『香りの便り』といえたら優雅なんです が、栗の花のあれは・・・『香り』とはいえませんね、やはり。 さてさて、我が家周辺には梅雨入り時期を知らせる青臭い匂いの便りが届い ていますが、皆さんのお住まいの場所でもこんな匂いの便りは届いているで しょうか? もし届いていたら 「何だこの青臭い匂い、臭いな!」 などと言わず、自然が届けてくれるありがたい便りとして受け取ってあげて くださいね。
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