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■十二支と時刻
 東洋の暦の話をすれば、触れないわけにはいかないのが十二支。

 何度か書いてきたとおり十二支は元々は「十二ヶ月」を表すために生み出さ
 れたもので、月の順番を表すための特別な記号として使われていました。
 現在、私たちが慣れ親しんだ十二支と神獣、例えば「子と言えば鼠」といっ
 た関係は、一般庶民になじみやすいようにと、だいぶ後になって考え出され
 たもので、元々の十二支には動物との結びつきはありませんでした。
 (ちなみに、十二支と動物を結びつけたのは支那の後漢王朝の頃とのこと)

 元々は月の順番を表す記号だった十二支ですが、それ以後日にちや年数の表
 示、時刻や方位までその使用範囲を広げていきました。年や日との関係は何
 度か書いて来ましたから、本日は時刻との関係について書いてみます。

◇十二支と十二辰刻
 十二支を均等に一日の時刻に割り振ると、 1つの干支が 2時間を表すことに
 なります。この均等な長さに時刻を割り振り、それを干支名で呼ぶ方法を十
 二辰刻法と呼びます。

 このときの 2時間を一辰刻といい、この「辰刻」を「とき」と呼びます。
 この方法での時刻の呼び方は、子ノ刻とか、辰ノ刻となります。ただ、一辰
 刻は 2時間と長いので少々大雑把過ぎるのでさらに半分にして前半の始まり
 を初刻、後半の始まりを正刻とし、卯ノ初刻、午ノ正刻等とも使いました。
 また、初刻を「上刻(じょうこく)」と言う場合もあり、辰ノ上刻などのよ
 うに用いられました。

 これでもちょっと大雑把すぎるなというときには、一辰刻を 1/4にして、一
 つ、二つ、三つと数える方式もあります。

  草木も眠る丑三つ刻(どき)

 などの使い方ですね。

 十二支を時刻に割り振っておりますが、暦の上での時刻は昔から現在と同じ
 ように真夜中から始まりましたので、真夜中は子ノ刻、真昼は午ノ刻となり
 ます。

 現在でも一日を「午前と午後」に分けますが、この「午」は真昼が午ノ刻で
 したから、その前か後かということでこう呼ばれるようになりました。
 また、真昼を「正午」というのも「午ノ正刻」から来た言葉です。これと反
 対の真夜中も、正午ほど一般的な言葉ではありませんが「正子」と使う場合
 があります。もちろん、「子ノ正刻」の意味ですね。

◇「十二辰刻法」は定時法
 「江戸時代の時刻は不定時法であった」とよく言われるのですが、これはか
 なり間違いを含んだ言葉です。

 既に書いたとおり、十二辰刻法は一辰刻を 2時間とした「定時法」です。
 一般に言われる、日の出や日の入りを基準とした不定時法というのは一般の
 生活で使われたいわば非公式な時刻です(江戸時代に作られた最後の暦、天
 保暦だけは、この不定時法による表記を取り入れています。実生活に合わせ
 て譲歩した結果でしょう)。
 この不定時法は

  夜明けを「明け六ッ」
  日暮れを「暮れ六ッ」

 としこの二つの「六ツ」の間を六分割したものなので、季節によって夜と昼
 で使われる時刻の長さが変わるというもので、夜明けから日暮れまでという
 当時の人々の生活には便利な時刻系と言うことで、日常生活で使われていま
 したが、あくまでも非公式な時刻系でした(天保暦をのぞく)。
 十二辰刻法の方は、季節や昼夜の長さにかかわらず

  一辰刻 =  2時間

 です。間違えのないように(ややこしいですけれど)。

◇「子の刻の始まり」は何時?
 さてここでもう一つ、現在の私たちから見ると不思議なことがあります。
 十二辰刻法の始まりは「子ノ刻」です。ところが子ノ刻の始まりと、一日の
 始まりは同じではないのです。今の時刻で表すと、

  子ノ刻 ・・・ (前日の)午後11時から、 1時までの 2時間

 となります。ところが一日の始まりは現在と同じく真夜中(零時)です。つ
 まり子ノ刻の前半、子ノ初刻(上刻)は前日なのです。では、

  今日はいつから始まるのか

 というと、子ノ刻始まって 1時間後、「子ノ正刻」からということになりま
 す。実は既に「真夜中を正子」と言うと書いたのはこれを意味します。真夜
 中は子ノ正刻なのです。

 同じように真昼も「正午」。つまり午ノ正刻。午ノ刻の始まりである初刻は
 午前11時です。時刻を表す十二辰刻の始まりと一日の始まりが一致しないな
 んてなんだか不思議。いまのように一日の始まりは零時という感覚になれた
 身としては、不便そうだなと感じてしまいますが、現実にそう使われていた
 のですからしかたがない。
 ちなみに日常生活で使われていた時刻はどうなっていたかというと、

  真夜中は「夜九ツの始め」で、午前は「昼四ツの終わり」で終わる

 この点では、始まりと終わりが明確でわかりやすい形式です(ただし、始ま
 りが「九」で終わりが「四」という点は、なんだか変な感じですが、この話
 は、また何れ取り上げるとして、今回は省略)。両者の関係を見ると

  子ノ初刻 ≒ 夜四ツ半
  子ノ正刻 = 夜九ツ
  ついでに、
  丑ノ初刻 ≒ 夜九ツ半
  丑ノ正刻 ≒ 夜八ツ

 という具合になります。「≒」としたのは、定時法の「一刻(いっこく)」
 と不定時法の「一とき」が同じ長さではないためです。
 ※「九ツ」、「八ツ」が示す「一とき」の長さは、季節によって変化しまし
  た。また昼と夜とでもその長さは違うものであったことをお忘れなく。

 一つの時代に、複数の時刻系が使われていたためでしょうか、時代劇などで
 はたまに使い方がおかしなことがあります。時代考証の間違いかと言えば、
 そうとばかりも言い得ません。何故かというと、どうやら江戸時代の人たち
 も、結構両者を混同して間違って使っていたようなのです・・・。

 今の時刻系が単純で良かったと胸をなでおろしながら、今日の暦のこぼれ話
 を終えることに致します。

※本日の解説記事は、2008年に書いた内容をもとに、加筆修正したものです。

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